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福岡高等裁判所 昭和31年(ネ)725号 判決

控訴人 吉島産業株式会社

被控訴人 熊本国税局長

訴訟代理人 川本権祐 外三名

主文

本件控訴を棄却する

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す、控訴人の昭和二十六年一月一日以降同年十二月二十一日に至る営業年度の法人税に関する審査請求を棄却する旨の昭和二十八年八月四日付の被控訴人の決定を取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の、事実上及び法律上の陳述は、控訴代理人において本件の如き白色申告の場合においても、課税額を決定するには納税者本人の帳簿によるべく、その帳簿が真実に反することを明確にした上でなければ、紊りに推計に基く課税をなすべきものでないことは、青色申告の場合と異るところなく、従つてまた白色申告においても徴税庁が更正決定をなすには申告者の帳簿によつては所得の正確な計算ができない所以を明らかにした理由を該決定に附せなければならない。然るに本件において原処分庁は控訴、人の申告を排し、控訴人の帳簿によらずして、みだりに推計課税による更正決定をなした違法があるのみならず、その更正決定に何等の理由を附していない違法があるから、被控訴人は原処分庁の決定を取消すべきであるに拘らず何等の理由を示すことなくこれを支持して控訴人の審査請求を棄却する旨の決定をしたものであつて、被控訴人の右決定は上述するところにより違法なること明らかであるから、その取消を求める。原処分庁及びその決定を支持した被控訴人は、控訴会社経営の大衆食堂の昭和二十六年度における荒利益を四割として、この比率によつて仕入原価から売上高を逆算して控訴会社の所得額を決定しているが、控訴会社の食堂部が一般の大衆食堂と同一の利益を挙げ得なかつた特殊事情としては既述のものの外(イ)控訴会社食堂部の昭和二十六年度の営業は昼間のみであつた。(ロ)控訴会社の食堂部は駅前の食堂で汽車の乗降客を相手とする関係上注文品が限られた時刻までに間に合わず、注文取消となるものが多い為に売残品多く、これを廃棄しなければならない為売上高が少くなること。(ハ)知人その他に対する接待費に毎月一万円以上出費していたが、控訴会社はその分を必要経費として計上していなかつた為、売上及び所得額を実際より多く認定している。等の特殊事情があると述べ、被控訴代理人において、右主張事実を否認した。

証拠〈省略〉

理由

当裁判所は左記の点を附加する外、原判決の説示するところと同一の理由によつて、被控訴人の本件法人税の審査決定は正当であり、その取消を求める控訴人の本訴請求は理由がないと判断するから、ここに右理由の記載全部を引用する。

(一)  控訴人は、本件課税額の算定につき原処分庁が控訴人の帳簿によらずして推計課税の方法によつたことを違法であると攻撃するけれども白色申告においても法人の所得額を認定するにはまずその法人の正規の帳簿書類等によるべく、紊りにこれを無視して直ちに推計課税の方法によるべきものでないことは、控訴人主張のとおりである。しかしながら、本件においては、原処分庁は控訴人の諸帳簿、伝票、損益計算書その他の書類が到底信憑すべからざるものであることについて確証を得、これ等の張簿書類によつては控訴人の所得額を正確に認定することが不可能であるところから、やむを得ず、前記(原判決理由掲記)の如き推計課税の方法によつたものであることは既に(原判決理由において)説明したとおりであるから、この点について何等の違法はない。また白色申告においても徴税庁が更正決定をなすについては、その更正の根拠乃至理由が具備されていなければならないのは勿論であるが、納税義務者に送達される決定書にその理由を記載しなければならないものでないから、この点に関する控訴人の主張も採用できない。

(二)  原審証人佐藤守、同上田代国雄、同上山村浩の各証言を綜合すれば本件において原処分庁は熊本国税局管内における大衆食堂の荒利益(売上総額からその原価を差引いたもの)についての標準率は昭和二十六年度において四十五パーセントとなつているけれども念の為控訴人の食堂については、それより内輪に見積つて四十パーセントを以て荒利益率としこれを以て仕入原価より売上高を算出したものであること。右荒利益率四十五パーセントというのは熊本国税局が管内六ケ所の税務署を指定し当該税務署管内の納税者の中から正しい申告をしていると認められる者を選んでその営業について業種別に収支の実態調査を行つた結果、仕入原価と売上高との比率が右各業者間において大体一致しており平均四十五パーセントとなつたので国税局長官の承認を得てこれを以て大衆食堂の荒利益の標準率としたものであること、及び控訴人自身の前年度分についての申告によるも荒利益率は四十パーセント程度になつており、原処分庁の調査の結果によれば、控訴人の本件食堂経営について昭和十六年度と前年度との間に特に荒利益率に変動を生ずべき特殊の事情は認められなかつたことを認定するに充分であるから原処分庁が前記推計をなすについて荒利益率を四十パーセントと見たことについても何等不合理な点はない。

(三)  控訴人は、控訴人経営の大衆食堂の昭和二十六年度における荒利益率は三割であつて他の大衆食堂より低率とならざるを得ない特殊事情が多々あつた旨主張し、原審及び当審吉島サト子の証言原審及び当審における控訴会社代表者本人尋問の結果中には、これに符号する部分があるけれども、これ等の証言供述は、原審及び当審証人小形貞子原審証人田代国雄の証言、成立に争のない乙第一乃至第四号証、竝びにその記載の形式内容から見て真正に成立したと認められる乙第五号証の一、二と対比して検討すると到底措信し難い。

(四)  当審において控訴人の援用する甲第九、十号証を以ては、以上(原判決理由を含む。以下同じ)の認定を覆すに足らず、当審証人吉島サト子の証言、当審における控訴会社代表者本人尋問の結果中叙上の認定に反する部分は措信できないし、他に以上の認定を左右するに足る確証はない。

以上のとおり控訴人の審査請求を棄却した被控訴人の本件決定は正当であつて、その取消を求める控訴人の本訴請求は失当であるからこれを棄却した原判決は正当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 野田三夫 中村平四郎 天野清治)

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